国際政治のモラル・アポリア ―戦争/平和と揺らぐ倫理
高橋良輔・大庭弘継 編
「地獄への道は善意で敷き詰められている」という格言があります。国際政治においても、望んだものとは真逆の結果になる難問が生じています。これら解決できない難問(アポリア)を、人道的介入、対テロ戦争、核廃絶、防衛戦争、平和構築、民主化、国家主権、人権などのトピックごとに取り上げて、本書は考察しています。みなさんも、本書を通じて国際政治学者の苦悩を共有してください。
取り扱い: 京都大学図書館
研究者からの一言:あなたなら、なにを「犠牲」にしますか?
この世界には「究極の選択」が存在する。紛争の現場、感染症への対処、太陽観測の研究所において。どの選択肢にもデメリットがあり、多くの人々の運命を左右するため、決断には痛みを伴う。そのような「究極の選択」が必要とされるときがあり、ふだんから考えておかねばならない。それを「常識」とするため、本発表を行う。
大学院文学研究科
大庭 弘継 研究員
大学院文学研究科
大庭 弘継 研究員
高木 裕貴 博士課程
防災研究所
玉澤 春史 研究員
大学院理学研究科
河村 聡人 博士課程
山梨大学
小松 志朗 准教授
東京大学
中村 長史 特任研究員
名古屋大学
大園 誠 研究生
人生そのものだ賞
これから社会全体で考えていくべき問題で賞
答えのない問題にもくじけないで賞
世界にあふれる「究極の選択」 社会に役立つ哲学で賞
ポスターが分かりやすいで賞
研究のウラ話を赤裸々に話してくれたで賞
より深く考えることの大切さを知ったで賞
ワクワク賞
えらんだで賞
いやなこときいてくる賞
まるでサンデル教授で賞
話していて楽しかった賞
究極の選択を真剣に考えさせてくれたで賞
深く考えるきっかけとなったで賞
痛い。が人として思考停止してはいけない賞
常識を変えて欲しいで賞
多くの方々に足をお運びいただき、また「究極の選択」に対し、私たちとともに取り組んでいただきありがとうございます。
そもそも犠牲が生じるような問題が起きないようにすること、これが一番大切です。しかし残念ながら、いろんなところで「想定外」の問題が生じ、さらに選択肢のすべてに犠牲が含まれている場合もあります。そんな時に備えて、誰かに勝手に運命を決められるのではなく、前もって社会の中に解決の型や、問題が生じた場合の対処策などの合意を生み出しておく必要がある、と私たちは考えております。さらに、「究極の選択」として明示化することで、そういった事態にならないように対策が進むこと、つまり今回の発表が「自己破壊的予言」となることも望んでいます。
困難な選択にお付き合いいただきありがとうございました。
大庭弘継(京都大学):代表・全般担当、
大園誠(名古屋大学):よりマシな悪担当、
河村聡人(京都大学):太陽フレア補佐、
小松志朗(山梨大学):感染症担当、
玉澤春史(京都大学):太陽フレア担当、
高木裕貴(京都大学):校正・論理性チェック、
中村長史(東京大学):全般補佐・人道危機担当
(上記7人で当日発表を行った。代表を除いて、50音順。)
以下は、当日提示した「究極の選択」と投票数、来場者のノートです。
【人道危機】
問い:あなたは仮想の国に住んでいます。そこから遠いある国で、ジェノサイドが起きています。軍事介入すれば、内戦に苦しむ人々を一定数助けられます。一方、空爆は、誤爆によって無辜の人々を一定数殺してしまうリスクもあります。地上軍を派遣すれば、保護するべき人々と衝突して恨まれる恐れもあります。
選択肢と投票数:あなたは世論調査で、どの選択肢を取りますか?
①空爆する 8票
②地上軍を派遣する 12票
③介入しない 27票
来場者のノート
・②。介入しない判断はない。介入するなら自分たちの犠牲のリスクを取らないと平等ではない。
・選択肢外かな。④暗殺計画を実行するなど、ピンポイントな介入をする。
・長期的には教育(補足意見)
・難民の受け入れ、物資支援
・早く終わらせるために、犠牲はある程度やむをえないのでは?
【太陽フレア】
問い:観測から、大規模な太陽フレアの発生を確認した。シミュレーションの結果、15時間後に強力なプラズマ(コロナ質量放出)が地球に到達するとの予報が、一部の研究者から出された。予報が的中した場合、全世界で2兆ドルの被害が想定される。しかし、インフラを停止することで被害を抑制できる。ただし、インフラ停止によって、数千億ドルの経済損失が見込まれている。なおこの予報は、天気予報よりも不確実である。
あなたは首相である。地震のような法的根拠のないなか、超法規的措置として、電力などの各種インフラを停止するべきか判断を迫られている。
選択肢と投票数:あなたは首相として、どの選択肢を取りますか?
①予報を信頼し、インフラ企業に、超法規的だがインフラを停止させる。 29票
②予報は不確実なので、政府からインフラ停止を要求せず、予報についても伝達しない。 4票
③インフラ企業に対し、政府から予報の存在を伝えるが、インフラの停止については各社の自主判断に委ねる。 20票
来場者のノート
・停止がかえって危険なこともあるので、各事業所に委ねる。
・①。超法規的をいざというときにできるのが政治家。科学者の失敗を許容できる組織を(大学が守れ)
・①。すべての情報をオープンにすべきだし、責任を企業に押し付けるのはおかしいと思います。
・②。現状の予報精度では、Bの方向、MCの厚みのambiguityがある現状では。(台風の精度くらいなら)①か③、小なら③、大(世界規模)なら①
・③。多国籍企業だと小さい国家の権力より大きい力を持っているから、一国でそれを操作することはできない。
・①。50%以上、1~2日の間なら。
・①。未然に防げるのなら、不確実性があれど行動。②はありえない。←「知ってるなら教えろよ」。国民の不要な不安を除くにはどうするか。
・①。③は無責任。最終的に苦しむ市民の怒りを会社に向かわせているだけ。①は転ばぬ先の杖。何もないなら②がいいけど。
【感染症】
問い:あなたは先進国の政府を率いる首相です。自国内の空港から直行便・乗り継ぎ便が出ている遠い外国(途上国)で未知の感染症が発生し、すでにその周辺国にも広がっています。この感染症は流行のスピードが速く、致死率も高いという情報だけは入っています。あなたの国は政治・経済の面で国際的な影響力があり、科学技術や医療のレベルもトップクラスです。従って、あなたの国のとる行動はある種の指針となり、他の国々も真似する可能性が十分あります。
選択肢と投票数:あなたは首相として、どの選択肢を取りますか?
①すべての渡航(空港における出入国)を制限・禁止する。 4票
②感染国に対象を絞って渡航を制限・禁止する。 21票
③渡航を制限・禁止するかどうかは、感染症の詳細が明らかになるまで待つ。それまでは、空港における水際対策(検疫など)の強化でしのぐ。 12票
④渡航の制限・禁止はせず、空港における水際対策の強化もしない。いずれは自国に感染症が入ってくることを覚悟して、はじめから国内対策に力を入れる。 1票
来場者のノート
・③。私は③を選びましたが、③で感染が食い止められない場合は、③→②→①という手段を取るつもりです。 理由は、この選択肢の中で③が最もリスクが低く、コストも低いと考えたからです。渡航の制限は経済的打撃が大きすぎて、第一の手段として選ぶのは、あまりにリスキーだと思います。
・①。どれも苦しい。
本出展の参加研究者がお勧めする本をご紹介。
高橋良輔・大庭弘継 編
「地獄への道は善意で敷き詰められている」という格言があります。国際政治においても、望んだものとは真逆の結果になる難問が生じています。これら解決できない難問(アポリア)を、人道的介入、対テロ戦争、核廃絶、防衛戦争、平和構築、民主化、国家主権、人権などのトピックごとに取り上げて、本書は考察しています。みなさんも、本書を通じて国際政治学者の苦悩を共有してください。
取り扱い: 京都大学図書館
小松志朗
ある国の内戦で一般市民が大量虐殺や人権侵害の犠牲になっているときに、その人たちを救うために他の国が軍事力を使って介入することを人道的介入といいます。本書はそれが実際に成果をあげられるものなのか、あるいはどうすれば成果をあげられるのかということについて、4つの事例(ソマリア、ボスニア、コソボ、リビア)を手がかりに考えています。現在進行中のシリアの内戦・介入を理解するのにも役立つ本です。
取り扱い: 京都大学図書館
大井赤亥・大園誠・神子島健・和田悠 編
戦後日本を代表する12名の思想家たちは、それぞれが生きた時代の「日本の課題」をどのように考え、それを解決するためにいかに格闘したのか。彼ら/彼女らが取り組んだ課題にはいまだ未解決のまま残されている「未完の課題」も多い。与えられた条件(その時々の政治的、経済的、社会的、文化的な条件など)のなかで、いかに問題解決に取り組めばよいのか。歴史的なケーススタディとして、彼ら/彼女らの思想的営為に注目せよ。
取り扱い: 京都大学図書館
伊藤瑞彦
まだ見ぬ全世界宇宙天気災害をシミュレーションした日本語の小説。どのようなことが起こりうるかを小説の形であらわしている。これを防ぐための「決断」がいかに重いかわかる一冊。
中内政貴、高澤洋志、中村長史、大庭弘継編
紛争等で苦しむ遠い国の人々を助けるべきか。ときに武力で。このような「究極の選択」に関わる概念に、「保護する責任」というものがあります。2001年の提唱以来、論争が繰り返されてきた概念ですが、それが誕生した背景や近年の新たな展開を踏まえていなかったり、類似概念と混同していたりするなどの誤解がみられることも事実です。本書が紹介する120の資料を踏まえ、正確な理解に基づいて「究極の選択」を議論してみませんか。
取り扱い: 京都大学図書館