京都大学アカデミックデイ2016

人道のための戦争?よりマシな悪を選ぶ

研究者からの一言:数十万人をナタで切り刻む虐殺、どう向き合いますか?

虐殺をやめさせるための戦争、それが人道的介入です。しかし、目的が人道でも、中身は戦争であり、民間人の犠牲者も数多く生じます。一方で放っておくと、さらなる虐殺が続きます。介入も不介入も悪の選択です。が、どちらがよりマシな選択でしょうか?

出展代表者

文学研究科
 大庭 弘継 研究員

参加者

文学研究科
 大庭 弘継 研究員
北海道大学
 眞嶋 俊造 准教授
東京大学
 中村 長史 特任研究員

来場者より

こどもにきっかけを作っていただけた賞
世界情勢をわかりやすく教えてくれたで賞
深く考えさせられたで賞
コラテラルダメージで賞
考えさせられるで賞
新しい視点をもつことができたで賞
私の関心領域を広げてくれたで賞
平和を考えるキッカケになったで賞
議論が楽しかった賞
アンチ・wars賞
これからも研究を頑張ってほしいで賞
戦争は嫌で賞
ワクワクしたで賞
倫理追求で賞
世界から争いをなくしてほしいで賞
難しい質問でしたで賞
深く深く考えさせられましたで賞
綺麗事で終わらせなかったで賞
考えさせられる賞
真剣に考えさせられたで賞
素晴らしいで賞

アカデミックデイを経ての感想

大雨の中、多くの方にご見学いただき、またアカデミックデイ大賞までいただき、大変ありがとうございました。おそらく、多くの方に投票いただけた最大の理由は、私たち発表者の努力というより、現実にある悲劇の圧倒的な重さにある、と考えています。

今回の発表は、日ごろ私たちが取り組んでいる道義的難問(モラル・アポリア)を、ご来場いただいた方々にも共感していただきたい、そういう思いで取り組みました。この研究は、虐殺の内実に吐き気を覚えつつ、また難問を前に無力さを感じつつ、さらに悲劇を売り物にしているという苦さを自覚するという、負の側面にあふれています。そんな中、多くの方々に「難しい、でも選ぶ必要がある」と共感していただけたことで、抱えている重荷が少し軽くなったように思えます。理解してくださる方がいるというのは、本当に励みになります。

 ありがとうございました。

大庭弘継

眞嶋俊造

中村長史

ご来場いただいた方々に、道義的難問を三問提示させていただき、さらに三つの選択肢から一つを選んでいただきました。その結果を報告させていただきます。(一か所だけ、読み取れなかった部分がございますが、その他は、原文のまま下記のとおり文字起しして掲載しております。)

●選択Ⅰ 空爆、地上軍、不介入

あなたの国から遠いある国で、ジェノサイドが起きています。軍事介入すれば、内戦に苦しむ人々を一定数助けられます。一方、空爆は、誤爆によって無辜の人々を一定数殺してしまうリスクもあります。地上軍を派遣すれば、保護するべき人々と衝突して恨まれる恐れもあります。

    あなたは世論調査で、どの選択肢を取りますか?

    ①空爆する。

    ②地上軍を派遣する。

    ③介入しない。

——来場者の選択——

   ①空爆する:11票

   ②地上軍を派遣する:12票

   ③介入しない:21票

   その他:空爆すると地上軍を派遣する:1票

——来場者のコメント——

 ・人間は何のために存在しているのか。己の醜い利権を広範に駆使する属性が内部にあるからだろうか。 他者を抑圧することが倫理的に“悪”とするなら、理不尽な現象がこうも多く表現されるか。

 ・放置するのはよくないことだと考えます。その国自体で解決できていないので紛争が起こっていると思うので、どこかの国が手を差し伸べるべきだと考えます。

 ・介入しないとその国の人々が絶望したまま、一方で地上軍派遣では自国の犠牲が多い。

 ・地上軍を派遣するほうが空爆よりも被害は抑えられる可能性は高いし、保護するべき人との衝突があっても保護できるものは保護したいし、衝突するとは限らないから。最も印象的な行動をとり、世界に目を向けさせるべきだと考える。

 ・②と③におけるリスク。②であれば、地上軍にかかるリスク。③ならばジェノサイドが止まらないということを考慮したら、①がまだましなのかなと考えました。

 ・①なら、ジェノサイドを止めつつ、介入する国へのリスクが少ないかと思いました。②は介入する側にリスクが大きすぎ、③はジェノサイドが止まらない可能性があると思います。でも、自国の軍には①も行ってほしくない・・・

 ・放置することで人が市に、介入することで人が死ぬ。でも介入してもがくことで何かが変わると考えることができるなら介入すると思いますが、私が介入者として軍人として武装集団を殺す罪悪は何かが変わるために必要なことなのか確信を持てない。

●選択Ⅱ 継続、撤退、積極介入

あなたの国は、某国での国連平和維持軍に施設部隊を派遣しています。ですが、某国は再び内戦状態となり、ジェノサイドらしき状況が発生しています。あなたの政府は、内戦に巻き込まれた自国部隊が誤って無辜の人々を殺傷することを恐れ、撤退を検討しています。しかし、自国部隊の撤退は、他国軍の撤退の連鎖を引き起こしかねません。逆に、部隊の増派は、某国の治安に貢献しますが、国益にはならず、自国兵士を危険にさらします。

あなたは世論調査で、どの選択肢を取りますか?

①現状のまま、部隊を駐屯させる。

②部隊を撤退させる。

③部隊を増派して、積極的に介入する。

——来場者の選択——

①現状のまま部隊を駐屯させる。:19票

 ②部隊を撤退させる:14票

 ③部隊を増派して、積極的に介入する:4票

——来場者のコメント——

 ・平和「維持」軍なので、もう一度平和を作り出すのは介入しすぎだと思うから。

 ・ジェノサイドの事実を見逃してまで撤退すべきではないと考えます。この状況を早く終わらせるために、増員したほうがいいと考えます。

 ・ジェノサイドの解決は、平和維持軍の目的なので、撤退すべきところではないと思う。増員は国内の反発が大きくなりそうなので避けたい。

 ・①と③で、迷いました。理由はアフガン・イラクの現状を見て。

 ・世界の平和と自国の利益は直結する。目を背けても、他国は助けてくれず、悪循環。

●選択Ⅲ 移動、一部移動、死守

あなたは国連平和維持軍の30人ほどの部隊の指揮官として某国に駐留しています。そのあなたが駐屯している学校に、2000人もの人々が突然逃げ込んできました。学校の周囲は、ナタを持った民兵に囲まれており、ときどき威嚇してきます。また別の場所にいた自国兵士10名は、民兵に襲われ惨殺されたとわかりました。それでも、あなたとその部隊は学校を死守しています。

数日後、上級司令部から、あなたの部隊は学校を引き上げ、空港の防備につくよう新たな命令を受けました。

あなたは指揮官として、どの選択を取りますか?

①命令どおり、部隊30名全員で空港に移動する。

②命令に背いて10~15名を学校に残し、残りを空港に移動する。

③命令に背いて、学校を死守する。

——来場者の選択——

 ①命令通り、部隊30名全員で空港に移動する。:17票

 ②命令に背いて、10~15名を学校に残し、残りを空港に移動する。:3票

 ③命令に背いて、学校を死守する。:9票

——来場者のコメント——

 ・答えが出ていない現状では割り切って、犠牲の少ないほうを選択するしかないと思うし、だれもが納得のいく答えが出たのなら、それを倫理に組み込んで答えだしていくべきだと思う。

 ・学校に残って、30人の舞台で守り切れるとは限らないと思い、もし、学校に残って命を落としてしまうのでは意味がないと思うので、引き上げるべきだと考えます。

 ・民兵の数が分からないと、何とも言えないが、30人では守衛に限界があると思われる。本部などに連絡して、2000人を無事に移動させられる部隊が車で少人数で守りつつ、命令も守るべきだと思います。

 ・空港に物資・救援部隊等が到着するかもしれないので、死守しなければならない。安全が確保出来たらすぐ、③の学校へ戻る。

 ・まずは、目の前の差し迫った状況の解決を優先しつつ、現状が分からない空港の状況を把握してから決めたい。

 ・空路を失うことは敗北、死につながる。2000人が学校にいるのは無視しがたいか、空路があれば救える命の数がケタ違いであると考える。

 ・②は2010~2015人死ぬ可能性がある。①は自分はよいかもしれないが、与論、2000人の人々、自分の後生etc、いろいろ考えてない。

 ・①空港という空路を奪って、学校を空爆し、我々の負担を軽減する。

フォトギャラリー

研究者の本棚

本出展の参加研究者がお勧めする本をご紹介。

自分の研究に関連して紹介したい本

国際政治のモラル・アポリア ―戦争/平和と揺らぐ倫理

高橋良輔・大庭弘継編 / ナカニシヤ出版

問題解決を目指す前に、なぜ多くの努力が払われてきた国際政治の問題が解決しないのか、を探求した学術書です(自画自賛)。国際政治が直面している解決できない問題(アポリア)を、人道的介入、対テロ戦争、核廃絶、防衛戦争、平和構築、民主化、国家主権、人権のトピックごとに議論しています。なお本書の執筆は、深夜までの激論を支えてくれた酒の神(バッカス)のご尽力の賜物でもあります。記して感謝します。

取り扱い: 京都大学図書館

正しい戦争はあるのか?―戦争倫理学入門

眞嶋俊造 / 大隅書店

西洋哲学が培ってきた正戦論を整理したうえで、現代の戦争が抱える正しくない部分を明らかにし、「制戦論」(戦争を正当化する論理ではなく、戦争を制限するための論理)への再構築を目指した入門書/学術書です。なお戦争を扱うというだけで白眼視されることも多いのですが、本書で筆者が語る、高名な先生にディスられたというエピソードは、一部界隈で話題をさらっております。

人道的介入: 秩序と正義、武力と外交

小松志朗 / 早稲田大学出版部

人道的介入の事例を紹介するとともに、その成功条件を、政府と軍隊のコミュニケーションに着目分析した学術書です。本書に対し、高名な先生は書評で、人道的介入ではなく人道危機の原因の除去が重要だ、と批判しています。ですが、予防も重要だが悲劇が生じた場合の対処も必要じゃないのか、と出展者は違和感を感じました。なお高名な先生の書評は、厳しい批判を求めた筆者御自身の指名です。それでもショックのようでした。

取り扱い: 京都大学図書館

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